妊婦の歯科治療について

                                   筆 宇野直美
          『妊婦の歯科治療について』

妊娠中の歯科治療はおなかの子に影響があるためいけないと思っておられる場合がありますが、基本的に一般的な歯科治療をしてはいけない時期はなく、時期によっては歯を抜くことも可能です。
治療は妊娠中期(5~8ヶ月)であればほとんどの方が問題なくできます。
妊娠初期、後期は基本的には応急処置のみを行います。
特に初期2~3ヶ月は非常に流産しやすいため、過度の緊張や長時間にわたる治療は避け、いったん応急処置にとどめます。
そして後日5~8ヶ月の安定期に治療を行います。

むし歯、歯周病のため、痛くて夜眠れない、食事が出来ない、イライラしてしまう、などの症状が続けば胎教にもよくないため必要があれば安定期に積極的に治療をしたほうがよいです。

胎児の安全をより考えてレントゲン撮影はしない事が多いですが、どうしても必要な場合は防護エプロンを着用し、腹部を遮蔽して行います。
小さい部分的なフィルムのデンタル写真が基本ですが、必要に応じて全体がわかるパノラマ写真を撮影する事もあります。
歯科の場合は直接お腹にX線があたることはなく、最近多くみられるデジタルレントゲンがある診療所では、通常の十分の一程度の線量で撮影ができます。

むし歯が大きくて神経をとるような場合は麻酔も行います。
歯科の麻酔は局所麻酔で、歯肉から吸収され毛細血管より静脈、腎臓でろ過され心臓に戻ります。心臓から動脈に入り、胎盤でろ過され胎児に届くとは考えられず、通常量の使用では母子ともに影響はありません。
痛みを我慢するより、リラックスして麻酔をしたほうがスムーズに治療を受けられると思われます。

そして妊娠中や授乳中は原則として投薬はしませんが、痛みがひどい場合はやはり胎教にもよくないため投薬することもあります。
産婦人科の先生と相談し、影響の少ないもの、胎盤を通過しないものを選び最小限にとどめます。長期に渡って服用する事は避けます。
またテトラサイクリン系の抗生物質を服用すると胎児の歯を変色させるといった副作用があるため、注意が必要です。

妊娠中は女性ホルモンの分泌が約7倍も盛んになり、この影響で歯肉が腫れやすくなります。
二種類の女性ホルモンのうち、プロゲステロンは歯肉の炎症反応を増大させ、ホルモン量が増えれば少量の汚れでも歯肉炎が起きやすくなります。
またエストロゲンは歯周病の原因菌を増加させます。

そのため妊娠2~3ヶ月頃から歯肉が腫れたり出血を伴うことがあり(妊娠性歯肉炎)妊娠中期に顕著にみられます。
しかし必ず歯肉炎になる訳ではなく、日頃からのブラッシングと歯科医による口腔ケアをしっかり行っていれば防ぐ事は可能です。

とはいえ妊娠中は食事や間食の回数が増える、つわりがひどくて歯ブラシを口の中にいれるのも嫌になってしまう、
更にホルモンバランスの関係で唾液が粘り、(自浄作用の低下)結果として口腔内が不衛生になりがちです。
出産後ホルモンバランスが落ち着くと改善されますが、口腔内を不潔にしたままだとやがて重度の歯周病へと進行していきます。

出産後は育児におわれたり、関心がなくなりご自身の歯科治療は後回しになってしまい、放置し症状を悪化させてしまうケースがよく見られるため
できれば分娩までに治療を済ませておくことも大切です。