歯周病と心疾患について

 筆 川南壮平

          『歯周病と心疾患について』 

 近年、歯周疾患の研究が進むにつれ、歯周病が様々な全身の疾患に関係することが明らかになってきています。中でも注目されるのが心疾患すなわち心臓の病気との関連性です。そこにはどんなメカニズムが働き、どんなリスクが潜んでいるのでしょうか。

 今日は、歯周病と心疾患についてお話しいたします。

 一口に心疾患と言っても色々ですが、特に歯周病との関連が最も顕著なのが感染性心内膜炎です。聞き慣れない名前ですが、感染性心内膜炎は死亡率が20%を超える大変恐ろしい病気なのです。これは心臓の内部に細菌が付着し、増殖する事により起こる病気ですが、その原因菌は歯周病菌ではありません。感染性心内膜炎は種々の細菌により発症しますが、特に多いのは口腔連鎖球菌です。この菌は、口の中の唾液や歯茎等に数多く普通に存在する菌です。この普段は無害な菌を心臓に運ぶ際に重大な役割を果たすのが、歯周病菌なのです。歯周病菌によって起こる、歯茎が腫れる、歯茎から出血する等の歯周病の症状が、そのまま口の中の口腔連鎖球菌を血液中に運ぶ事になってしまうのです。歯周病が重篤な人ほど血中の菌が心内膜炎を引き起こす危険性が高いと言われています。
 
 歯周病原因菌自体が血液中に入った場合にも、重篤な心疾患が起こる場合があります。一部の歯周病原因菌は血液中で、アテロームという細菌や細胞の堆積物の形成を促進します。このアテロームは血管を狭め、血液の流れを悪くし、動脈硬化症を引き起こします。心臓の周囲で生じた動脈硬化は、よく知られる狭心症や心筋梗塞の原因となる場合があるのです。
 
 勿論、歯周病が必ず心疾患を引き起こす訳ではありません。が、そこには確実にリスクがあります。
  
 大切な事はリスクを減らすための歯周病の予防、すなわち日々の歯磨き、および歯科医院での定期検診である事はいうまでもありません。
                   
                          平成22年1月