口腔ケア -歯科衛生士の役割-

     『口腔ケア -歯科衛生士の役割-』
              平成22年11月 宇野直美 筆

口腔ケアとは、口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションによりQOLの向上をめざした科学であり技術です。
具体的には、検診、口腔清掃、歯肉・頬部のマッサージ、口臭の除去、フッ素塗布、ブラッシング、うがい、清拭、義歯の保管や手入れ、咀嚼・摂食・嚥下のリハビリテーション、食事の介護、義歯の保管や手入れ、舌苔や口腔乾燥への対応などがあります。

私たちは、咬むことで唾液がたくさん出てきて口腔内の食物残渣(食べかす)を洗い流しています。また、食べたり話しをするとき舌や頬が動き食物残渣を取り除いたりします。このように自然の生理的なことで口腔内にある食物残渣や付着物がある程度きれいになることが自浄作用です。
食物残渣は大部分のものは自浄作用やうがいで取り除くことが出来ます。
時間がたつと 歯垢(プラーク)になり、自浄作用やうがいでは除去できないため歯ブラシで磨く必要があります。プラークは細菌の塊であり、むし歯や歯周病の原因となります。
プラークに唾液中の成分であるカルシウムやリンなどが沈着し石灰化したものが歯石です。歯石はハブラシでは取り除けないので、歯科医師や歯科衛生士によって除去する必要があります。

むし歯予防や歯周病予防以外に、口腔ケアの大きな目的の一つとして誤嚥性肺炎予防があります。
私たちは1日に何回も無意識に唾液を飲み込んでいますが、ご老人など飲み込む反射が弱くなった場合、人工呼吸器をつけている方など、食道へ流れるべき唾液が気管へ流れてしまいますが、口腔内が不潔で細菌だらけでは唾液と共に口腔内の細菌が肺に入ることになり、それが原因で起こる肺炎を「誤嚥性肺炎」といいます。
 口腔内には通常でも多くの細菌がいますが、口腔内が不潔だと時間とともにその細菌はどんどん増えていきます。口腔内を清潔にすることで細菌の数を減らすことが出来、肺に唾液が流れたときも肺炎になる可能性が少なくなります。
専門的口腔ケアを行った人は、行わなかった人にくらべ、肺炎にかかった人数、肺炎による死亡者数、発熱者数が統計学的に明らかに低いということです。
原因不明の微熱がよく出る人が口腔ケアを行うようになって熱が出なくなったということもよくあります。
口腔内の細菌が誤嚥性肺炎の原因となるばかりではなく、血管障害、心臓病、糖尿病などの疾患を引き起こすこともわかってきています。

歯科で治療を始める前に、まず歯垢や歯石がついて不潔な状態では治療を進めることができないため、歯磨き指導や超音波スケーラーなどを使用しこれらの処置をするのが、歯科衛生士の第一の業務です。そして一連の歯科治療が終わった後、正しい歯磨きが出来ているか、歯肉の状態は良好か、など口腔内のチェックも歯科衛生士の業務です。
このように、歯科衛生士は、歯科診療開始前の口腔内衛生状態の改善と、治療後のメンテナンスの重要な部分を担っています。
またお口の中の健康への関心が高まり、健康を保つための知識や方法を知りたいという人が増え歯科医療自体も治療( cure )から予防( care )へと発展しつつある昨今、これらのニーズに応え重要な役割を果たすのも歯科衛生士です。
さらに高齢化社会を迎えた現在、在宅寝たきり老人の口腔内の健康管理のために、歯科衛生士の訪問指導や処置も始まっています。
                       
                  平成22年11月